コラム ホモロー 第3回:プッシュの話

2018.06.26

連載3回目? 読まれた方のなかには、「あ、こいつ絶対酒入ったら話長い邪魔臭いタイプのオッさんやわ……」。そう思ってるお方も多いのでは? そうです。やたら長い駄文を書きつづるボードウォーク店長ホモローです。

 

ちなみにお酒入らんでも、話相手いなくても、最悪テレビ相手にしゃべってます。そら接客業なんで舌は乾かしたらアカンしね。

スケートボードの基本ってプッシュからですよね?

さてと、うっとうしい梅雨から灼熱のギンギンギラギラサマータイムを控えてる今日この頃、皆様いかがお過ごしですか?

 

季節も良い時期なんでこれからスケボーをはじめるお客様が当店では年間で一番多い時期なんです。スケボーにご興味をもって頂き、はじめてのボードをゲットし、クルーズ(乗るだけ)でもトリック(飛んだり跳ねたり)でもパークで滑るお方でも、デッキの上に乗れたらまず一番最初に練習なれさるのはプッシュではないでしょうか?

 

プッシュとはデッキを片足で押して進むスケボーの基本中の基本。コレができないことには次の練習には進めないです。進めたらそれでOKと思われがちですが、じつは奥の深いこのプッシュについていろいろ掘ってみたらおもしろいエッセンスが隠れています。そう思い、今回ペンもといキーボードを取ってみた次第です。

左が前? 右が前? 時代によって違うスタンス

皆様は左足が前に来るレギュラースタンス、もしくはその逆の右足が前のグーフィースタンスどちらかでスケボーを楽しんでいらっしゃいますよね?

 

いずれにせよ軸足の左ないし右足をデッキの前部分に置き、反対の足でプッシュして進んでいらっしゃるかと思います。今では当たり前になりましたが、僕がスケボーをはじめた頃はその様なプッシュの仕方はそこまで浸透しておらず、何がどう正しいのか曖昧な時代でした。

 

たとえば、当時AWA(アルバ)に所属し、現在はスケートラグズに所属しているレジェンドプロスケーターのビル・ダンフォースさんを見てみましょう。右足が前のグーフィースタンスですが、プッシュの足が逆になっています。

 

 

ほかにも、超有名なハリウッド映画の1シーン(00:44辺り)でも、街の不良の1人は反対の足でプッシュしてます。おそらくたくさんのスタッフやコーディネーターが関わってるので、スケートの監修もあったはずなのに。まぁ、空飛んでますからね……。

 

 

皆様ご存知のこの映画は1989年公開。その当時ですら「コレ反対ちゃう?」てツッコミも入らなかったので、プッシュに関しては曖昧な時期だったと思われます。

 

この反対プッシュ、僕の地元である京都さらに僕らガキの間では、コッチの方が速く進める派と軸足をちゃんと前に置く派に分かれてました。なんなら反対プッシュ派の方が優勢。僕自身も最初の数年は反対プッシュ派やったし、なかには速く進めるならと、無理に反対プッシュに変える仲間も……。

 

その証拠には乏しいかもですが、現在もサンタクルーズのプロとして所属し、タトゥーアーティストとして活躍中のエリック・ドレッセンさんも、あきらか無理して一部反対プッシュでコンテストに出場しています。

 

 

コレが速く進めるためなのか、なにか意味あったのか、ドレッセンさんに聞けないのでわかりませんが、プッシュの足を変えてるのは映像で確認できるので、なにかあったのは間違いありません。

 

では、なぜ僕らがガキの頃にこのようなプッシュが存在したのか、やっぱりスケボーのルーツのサーフィンに秘密の鍵があるのかも……。

 

と少し気になったので、当店のゴリゴリサーファーのボスに「テイクオフ(サーフィンで腹這いから立つ時)って後ろ重心スか?」「スケボーの反対プッシュの感覚に近いスか?」て聞いたら、「ほぼ同時に立つけど、言われてみたら後ろ気味かなぁ~」「昔気質のサーファーがスケボー乗る時は、言われみたら反対プッシュで乗るかも」とのこと。からの、ロブ・マチャドとジョン・ジョン・フローレンスのスタンスの違いみたいな、サーファーのウンチク聞かされて、挙げ句「腹減ったわ」言うて一方的に電話切られました。

 

うちのボスが腹減ったので説立証とまではいきませんが、もしかしたらこの反対プッシュは魚が進化して両生類として陸に上がる前の過渡期のような、まだスケボーにサーフィンのフレーヴァーが残っていた遺産だったのかもしれません。

トリックの進化とともに変わるプッシュ

この反対プッシュ、ジャンプ台で飛んだりデッキを手で握って一旦片足を地面に下ろしてトリックを展開するボーンレス中心のトリックシーンから、手で何も持たずにジャンプするオーリーが中心のシーンに進化するにつれ、両足のスタンスをオーリーのために合わすのに時間がかかるので徐々に避けられるようになってしまいます。

 

反対プッシュのことを前述のビル・ダンフォースさんの名前を縮めて「ビルダンプッシュ」というようになり、さらに、“反対”ってことで、いつしか「オカマプッシュ」と呼ばれるようになりました。スケボーはじめた時は、そんなふうにいわれなかったのに、挙げ句の果てに反対プッシュは「ダサっ」っていわれて……。散々イジられた結果、僕もせっかくオーリーの練習までたどり着けたのに、またふりだしに戻って半泣き必死でプッシュを直しました。

 

僕と同じタイムラインで比較するのも僭越ですが、自由なスケートスタイルとトレンドに左右されない個性で現在fuckingawesomeを首謀するジェイソン・ディルさんや、今はどうしておられるか不明ですがランディ・コルビンさんなど、彼らも僕と同じような経緯をたどったタイプのスケーターなのかもしれません。

 

 

おそらくディルさんのデビュー作と思われるウィールブランドA-1meatsのパートでは、不意に素になった時(02:30辺り)に反対プッシュになってしまってますし、

 

 

ランディさんも不意に反対が出てしまったと思われる箇所があります(00:38、01:38辺り)。

 

確証はありませんが、先に紹介したドレッセンさんのように、故意にしているのではないっぽいので、皆様も一度ご覧頂き、ご判断下さいませ。

 

この反対プッシュは「モンゴプッシュ」と称され、現在のオーリー中心のストリートシーンでは、初心者様にあえてオススメするプッシュではなくなったように僕個人は感じます。90年代半ばに差しかかってからは、レギュラースタンスは左足を軸に右足で、グーフィーはその反対で乗るのが当たり前にはなりました。

プッシュで見えるスケートスタイル

しかし、フォーマット化されたからといって、個性が失われたわけではありませんでした。ここからは僕個人の感想なので決してソレが正しいとは言えませんが。

 

カリーム・キャンベルさんは、ただズボンが太いだけかも知れませんが、引きずる様と申しましょうか、舐めるようなプッシュと感じます。

 

 

ブレント・アシュレーさんは、ただズボンずらし過ぎだけかも知れませんが、プッシュ時にボードに乗ってる足を縦にせず、トリックを撃てる足が横のままプッシュしていらっしゃるように見えます。

 

 

デニス・ブセネッツさんは、ただズボンがピタっとしてただけかも知れませんが、わりかし細かく、しかしながら一蹴りで子像ぐらいなら倒せそうな力強いプッシュをなされます。

 

 

そして力強いプッシュといえば、マイク・ヴァレリーさん。ただズボンが短かかっただけかも知れませんが、姿勢を低く落として、一蹴り一蹴りが大きく大きく我が道を突き進むその攻撃的なプッシュは小さい独立国の暴動なら制圧できそうな勢いを感じます。

 

 

ルールとか決まりのないスケボーなんで、別にモンゴプッシュがいけないとは思いません。

 

現在でもスイッチスタンス(スケボー反対乗り)の時は、おのずとスイッチモンゴプッシュになってしまうエリック・コストンやステーブ・ウィリアムスさんもおられます。その逆で、先ほど紹介させて頂いたジェイソン・ディルさんは、現在スイッチスタンスのプッシュの時、完全に反対でプッシュなさっていますので、昔の反対プッシュ時代が活かされてるように感じています。

 

(僕もスイッチスタンスでトリックなんてできないですけど、昔取った杵柄でスイッチプッシュはできます……)

 

現在、超ナウ手のプロスケーター様は、ほとんどのお方は両方向のプッシュが標準装備になってきています。なので、各プロ様のメインスタンスをコッチが把握してないと、昔のように「あ、今スイッチスタンス(またはフェーキー)なったな」と判断するのも困難になってきました。もしかしたら、そのうちスイッチモンゴプッシュも「ダサい」になってしまうかもしれません。

 

ハンマートリック、魔法のようなトリック連発で、ゆっくりプッシュを収録している動画が減少してるように感じますが、プッシュシーンを収録すること自体はなくならないでしょう。そこの貴方もちょっと見方を変えて、各プロ様のプッシュを舐めるように愛でてみるのもこれまた一興かと思います。

 

さてと、もうキーボードで遊ぶの疲れたんで、ちょっくら冷えた黄金色に弾ける液体でも買いに近所のコンビニに行ってきます。プッシュで。ほな、お~きに。

 

【プロフィール】

荒川雄介 Yusuke Arakawa

1976年1月18日生まれ。長年、京都のローカルシーンを牽引してきたSUN FLOWERのライダーであり、BOARD WALK SPORTS KYOTOの店長。豊富なスケートの知識で、数多くのスケートビデオの制作にも携わっている。

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