コラム 本間章郎 第3回:パークを作るってカッケーす その2 【陳情書付き】
2018.07.05
なんとか無事に二回目に繋げられました。前回のコラムはご覧いただけたでしょうか?
これから全国にいくつものスケートボードパークができます。すでにいくつもできていますが、皆さんがご存知のNEWパークはどんな調子でしょうか?「いきてー」ってモチベーションぐんぐん上がっちゃうパークですか?「あらら」って感じですか?
また、写真や噂では良くても、行ってみたら路面がアスファルトだけだったり、コーピングが薄かったり出過ぎていたり、セクションの間隔がトンチンカンでやたらプッシュしないと滑れなくて疲れちゃう感じだったり……パークができる前の期待感を越えてくるパークってなかなか無いのです。これだけ情報が溢れる世の中になっても、完成時にガッカリしちゃうパークって、実はまだまだいっぱいあるのです。
スケートパーク設立への「はじめの一歩」をどう出すか
皆さんのローカルでそんなことが起きないように、草案からのステップで注意するべき点はたくさんあります。今回は「はじめの一歩をどう出すか?」ってところに注力して細かく説明できればと思います。実はここ、ヘンテコパークができないようにするのにとても大事なステップなのです。
さて、なんだかグッと地元にパークが欲しくなってきましたか? このコラムでそう思ってもらえるとうれしいです。でも、普通のスケーター、普通の学生、普通のサラリーマン、普通の僕らに、税金をたくさん使ってスケートボードパークを作ってもらうことが本当にできるのでしょうか?
皆さんの住む街は、子どもの頃からチャリンコで走りまわった街ですか? 近くの公園やちょっと離れた大きな公園、子どもの頃にはパパやママと一緒に遊んだ公園には何がありましたか? 滑り台やブランコだけでなく、自転車乗り場やテニスコート、サッカーグランドやプールやゲートボール場、なかにはアーチェリー場やフライングディスコースやBBQ場なんかもあるかもしれません。そういうのはなぜ作られたかというと、それを利用する人がいるからです。「公」園として広く色々な人のさまざまな需要に応えようとしているからです。
交通公園がある街もあるでしょう。ミニチュアの街に信号や横断歩道なんかがあって、子どもが自転車を街中で乗るルールがわかり、練習できる。横にある広場では補助輪を外す練習をする人がいたり、週末には白バイの警官が来て講習会とかやったりします。この「交通公園」って目的がはっきりしてますよね。テニスコートも野球場も目的がはっきりしている。しかも、街の誰もがその目的や必要性を認識していているのです。
では、スケートボードパークはどうでしょうか? プッシュでどれだけスピードが出るのか、どれだけ練習すればオーリーで空缶が飛べるのか、1m50cmのランプから降りてフラットバンクからどれだけ高く遠くに飛べるのか、長いレールをスライドするのにどれだけ速度が必要か。野球場の二塁から三塁の距離は日本中の野球場すべて同じなんで誰でもわかりますが、たぶんスケートボードパークで大事なさまざまなファクターは、スケートボードをやっている人しかわかりません。街の全員がわかるような共通認識はスケートボードにはまだまだ不足しているのです。
でもね、たとえば皆さんはゲートボールのルールを詳しく知っていますか? アーチェリーの競技はどう行われるか知っていますか? やっぱり同じようにみんなが知らない競技にも、地元の需要が高ければそれを練習するインフラ整備は必要なんです。
現在の日本のスケートボードシーンでは、愛好者数に対して「ちゃんと」滑れるスケートボードパークは絶対数がまったく足りていません。そういう状況や僕らにしかわからないことを上手に第三者に知らせることが必要なんです。
この街にスケートパークが必要だということを知ってもらう
では、その「第三者」って誰でしょう。ここかなり大事な点です。このへんからちょっと具体的になってくるので、自分が住む市町村とよく照らし合わせて考えてみてください。パブリックパーク(公共練習場)は「公」の建設により作られるものなのですが、その建設費や場所、規模は誰が決めるかご存知ですか? 正解は「公」です。
ただ、市民や区民、県民や都民はたくさんいるので、その代表が決めることになります。その代表は誰だと思いますか? そうです。市民の代表である議員さんたちです。では、それがどうやって決められるかご存知ですか? 行政区には議会があって、民主主義では多数決で決まります。いわゆる「採択」。議会には委員会があって、民生委員会とか建設委員会とか、議員さんが持ちまわりで担当します。そこでスケートボードパークは建設委員会で議題に上がることが多いのですが、通常議長を除く5人の議員さんの多数決で、3人の議員さんが挙手することで必要性が認められます。3-2でも5-0でも認められれば採択です。で、そこからが……。おっと。この辺はもう「最初の一歩」でなくなってしまうので、まずはこの部分をキッチリやっておきましょう。議会の議題にスケートボードパークの建設が取り上げられるにはどうすればいいでしょうか。そう、議会に「市民の中にこういう要望があるよ」ってことを知ってもらうのです。
また、行政はそこの首長に大きな権限があります。いわゆる市長、区長、知事の皆さんはそこの行政区がいかに発展し、成長し、住民がその恩恵を受けるか。そして、それが自分の評価につながり、4年後の選挙でその評価を受けることができるか、って部分を気にする方が多い。選挙で選ばれたのだから、選んでくれた住民にどう還元していくかが、本来の首長の役割です。住民の中の要望や問題には敏感になる必要があり、迅速に対応することも首長のスキルを大きく評価する部分になることと思います。最近では「市長への手紙」、「区長ポスト」、「県民の声」など、いろいろな名称で首長に直接意見を伝える手段がある自治体があります。首長がスケートボードパークの必要性を理解し、応援してくれるならば、これほど心強いことはありません。
さて、目的がはっきりしてきました。「首長や議会にスケートボードパークの必要性を知ってもらう」って言うのが、まず最初のステップとしてやるべきことなんです。スケートボードパークを建設する「はじめの一歩」としてまず最初にやるべきことは以下の2点。
● 自分が住む自治体の議会に「陳情書」「請願書」などでパークの必要性を伝えること。
● 自分が住む自治体の首長に直接伝える手段があれば、同じくパークの必要性を伝えること。
の2点です。「陳情書」「請願書」の違いは、すぐにググって調べてください。請願には議員の後ろ盾が必要です。また「自分が住む街の名前+議会」で検索すれば、地元の議会のWebサイトがあるはずです。陳情の仕方、請願の仕方などは、事前にしっかり調べておくのがいいかと思います。
また、たまに「市役所に署名を集めてパークを作ってほしいと、お願いに行った」という話しを聞くことがありますが、僕の個人的な意見では、市役所のどこに提出したのか、その部署がパークの担当をするのか、署名はどう活かされるのか、などを考えると、ちょっと不安がありますね。
なぜかというと、全国のスケートボードパークはすべてが「公園緑地課」が担当するわけではないのです。場所によって別の部署が担当することもあるし、「市民スポーツ課」や「福祉課」、「企画課」や「生涯学習課」などが担当することもあるのです。役所は縦割りが多く、たとえばパークの担当外の部署に署名や陳情をしても効果的に受け取ってもらえるかはわかりません。署名はマストではありませんが、もし集めるならば、陳情書や請願書と一緒にそれぞれの議会のフォーマットに沿った形で提出しましょう。
また、気持ちのうえでも「お願いします、作ってください」というのではなく、「ちゃんとしたスケートパークがないことが、自治体にとってどれだけマイナスになるかわかってますか?」、もしくは「スケートボードパークがあることでこんなに良くなるのに!」って気持ちで活動するのがいいかもしれません。「お願いします」ってスタンスだと「作ってあげるからこういうので我慢しろ」ってことになりかねないし、それよりもスケートボードパークの必要性を理解してもらって、より良いものを効果的に作るほうが何倍もいい結果が出てくる気がします。
たとえば首長がスケートボードパークの必要性を感じて応援してくれる場合は、「じゃあパークは●●課で担当してよ」とか「今、予算使える部署はどこだ?」って調べてくれたりする可能性もゼロではない。そういう首長の応援があれば、より現実化するのにハードルが下がっていくことでしょう。
首長はまったく動いてくれなくても、そういう住民からの声にはほぼ必ず「担当部署」から返信が来るので、その返信でそこの行政区で「担当部署」がどこなのか、それがわかるだけでも、直接意見することで少し前進したことになるでしょう。返事が来て終わりではありません。そこから担当部署、担当者などさらにスケートパークの必要性を伝えるやり取りをはじめることもできるのです。いかに必要性を伝えるか、ってプレゼン能力もパーク建設にちょっと関わってくるのかしれませんね。
首長へ直接意見を伝えられる手段がすべての行政区にあるわけではありません。でも、ほぼすべての街には議会があります。なので、あなたの今住んでいる街で、あなた自身が「陳情書」を提出することができるのです。
とはいえ、陳情書なんて、最初はどう書くのかわかりませんし、内容や長さや文体など、考えれば考えるほど面倒くさくなって……滑りに行きたくなってきます。なので、そういう作業をするのは雨の日にしましょうね。
ま、それはいいとして、ゼロから考えるのも大変なので、下記の僕が作った陳情書をマルッとコピペして使ってみてください。町名などは自分が住む場所の地名に替えて、しっかり地元の議会のWebサイトなどで提出方法なども確認して、サクッと提出してみてください。今までに何度か陳情書のサンプルを作りましたが、微調整した最新版がこちらになります。この陳情書は、すでにいくつもの議会で議題に取り上げられ、実際にスケートボードパーク建設に向けて進み出しているところもあります。
***** 以下コピペ *****
スケートボード練習場(アクションスポーツ場)の設置を求める陳情書(請願書)
●●●●市議会議長殿
陳情理由
2020年の東京五輪で開催国競技として正式採用が決まりましたスケートボードですが、僕らが住む●●●●市でもスケートボード愛好者が続々と増えてきています。全国的にはおよそ40万人の愛好者がいるといわれているこのスポーツは、ここ数年インラインスケート、BMXなどの「アクションスポーツ」のひとつ、またサーフィンやスノーボードなどと「横乗りスポーツ」のひとつとして若者を中心に人気が高まり、その愛好者数も飛躍的に急増中であります。
発祥の地のアメリカではほぼ全ての州に愛好者の為のスケートボードパークが設置され、学校の敷地に教育活動の一環として設置されたり、地域の青少年育成の為に大規模な公設パークを設置しているところもあります。また公立の公園内にも大小さまざまな規模の設備があり、子供から大人まで様々な年齢の愛好者たちの交流の場となり、地域の日常生活に溶け込んでいます。また、世界的にはすでに職業として成立しているプロスケートボーダーも人数が増え、600人を超える選手がプロスケートボーダーとして生活している環境が整っています。子供から大人まで健全なスポーツとして認知され、アメリカの小学生を対象とした「好きなスポーツ」のアンケート調査での人気ランキングも野球・バスケットボールについで3位に付ける人気スポーツとなっております。
さて、日本では東京都、富山県、神奈川県、山形県、大阪府など一部の場所で公共施設としてのスケートボードパークが設置されつつありますが、その規模や内容、数において、急増するスケートボード愛好者にとても対応できている状況ではありません。●●●●市にも沢山の愛好者がいるのですが、練習する場所が無く、しかたなく公園内や歩道で練習する光景も多々見かけられます。
すでに何年もこの状況は変わらないのですが、どこで練習しようとしても「歩行の邪魔になる」、「音がうるさい」などと言われてのびのびと練習するどころか、追い出されてしまうことが多いのも現状です。これからも増えていくだろうと思われる愛好者に対する対応と、すでに何年も練習を重ねプロライダーになる目標があるような愛好者達、親子でスケートボードを楽しむ愛好者などが堂々と練習できる環境の整備を願い、今回陳情書(請願書)を提出することに致しました。 (同時に地元の有志の愛好者達が集めました署名も添付いたします。)スポーツを通じての青少年育成、地元住民のコミュニケーションの場としての観点からもスケートボード練習場の設置を要望いたします。
記
1、子供から大人まで自由にのびのびとスケートボードを練習できる場所を●●●●市内に作ってください。
2、設備などは様々な種類・形状がありますので、愛好者の意見を取り入れてください。
3、夜学や仕事をしながら練習をしている人も多いので夜間でも練習できる環境にご配慮ください。
4、設備の設置後の環境において予想されるべき問題点を事前に検討し、利用者の観点から見て魅力的な場所にしてください。
5、愛好者にとっては切実で緊急な要望でもありますので、早急に対応してください。
●●●●市アクティブスポーツ場を作る会
代表 山田太郎
(住所)●●●●市●●1-2-3
(連絡先)090-●●●●-●●●●
***** ここまでコピペ *****
こちらから陳情書をダウンロード出来ます。 (左上ファイル→形式を指定してダウンロード)
陳情書のポイントをまとめると、こんな感じ。
1、地元の議会の議長宛に作成すること
2、自分だけでなく沢山の人のために作ってもらいたいってスタンス
3、地元住所の代表がやっている団体からの陳情・請願とすること。自分の連絡先は明記する
4、パークが無いこと自体がちょっと遅れている、って感覚をもってもらう
5、愛好者は滑る場所が無くて非常に困っていることを伝える
6、追いやるのでなく利便性の高い場所に作るのがベター
7、役所主導で勝手に変なパークを作ることだけは避けたい
8、地元愛好者のスタイルにより他自治体にあるパークがいいとは限らない
9、色々な地元愛好者の要望に合わせたルール作りをする
10、使う人にとって魅力的な場所にする
11、すぐにやってくれ
ってことをやんわりと伝えているのですが、やっぱりこれくらいの長さだと、スケートボードの壮大な魅力や、愛好者同士のシンパシーとか連帯感とか、本当に僕らが感じていることをすべて説明することはできません。ただ、地元にそういう愛好者がいる、って事実を伝えるにはこれくらいで充分なのかと思います。
あんまり細かく書きすぎちゃうと、議員に勝手な解釈をされて否決されてしまう可能性もあるし、これよりも少し足りないくらいの陳情書・請願書でもいいのかもしれません。そのまますんなり採択される場合もありますが、議会が「スケートパークってなんだ?」って意識を向けてくれれば陳情者に連絡がきます。
「スケートボードパークのことを議会で説明してもらえないか」とか「パークに詳しい専門家はいるのか」とか、まずはパークを作る場合の裏付けを探すケースが多いのですが、細かい質問としては「地元では愛好者はどれくらいの数がいるのか」、「今現在は地元のどこで練習しているのか」とか「ちゃんと練習するためにはどれくらいの広さが必要なのか」とか「設備にはどういうものがあるのか」とか「危険性や騒音問題はどう対応すべきか」とか、まあ、実にいろいろな質問が出てくる場合もあります。議員さんは地元の愛好者がすべての質問に正確に答えられるとは思っていないので、場合によってはプロライダーや有識者を呼び寄せて一緒に質問に答えてもらうこともあります。
そうやって検討されて5人の挙手で3人以上の手が上がれば採択です。ただね、ちょっと議員さんも変化球を投げる時があります。「必要性は理解できますが、愛好者の意見を聞くと、早急に対応するよりも場所や内容を吟味してジックリと対応するのが適切かと思います」とか、「ひとまず愛好者たちに市民活動を通してスケートボードを市民のみんなにご理解頂くような動きからはじめてもらうのはどうか」とか。先の意見は「すぐにやらないよ」って意味で、次の意見は「まず君たちの様子を見てから改めて検討するよ」ってことです。
議会では自由に好きなタイミングで反対意見を言うことはできないので、そうなってしまうと採択はされても、次のステップが少し高くなってしまったことになります。少しネガティブな見方かも知れませんが、もし逆の立場だとしたら、突然「こういうものが必要だから税金でなるべく立派なやつをすぐに作ってくれ」って言われたらどうですか? 議会にしてみたら、やっぱり市民の意見を受け取りたい気持ちはあっても、それに対する理解と準備は必要になってくることもあるかもしれません。
なので、陳情書の内容や、意見を述べる場合のプレゼンはどんな曲面でも非常に大事です。立派な話をする必要はありません。もし要請があった場合は下記の要点で意見をまとめておくのがいいでしょう。
● 現状、愛好者が増えてきて練習する場所がなくて困っている。
● 世界的に認知されたオリンピック競技なのに練習する場所もない。
● 愛好者の意見を聴かず、知らない人が勝手に進めるとあとで大変なことになっちゃうよ。
ってベースとなる考え方の定規をもっていどみましょう。そこがブレなきゃ、まあまあ大事なことは伝わります。またはこの時点から「僕だけでは広い見識に欠ける部分もあるかと思うので、専門家の意見も一緒にお聞きすることはできませんか?」って議会に逆に要請してもいいでしょう。
ちょっと長くなっちゃいました。これから上記の「陳情書のポイント」の1〜11までを詳しく解説しようかと思いましたが、もう大体わかりましたよね? なので、最後に今回のまとめを。
<まとめ1>
地元の議会に合った形で、たとえ一人でも地元愛好者の代表として正しく陳情書・請願書を提出する。
<まとめ2>
地元行政の首長に直接意見を届けられるシステムがある場合、必ずそれを利用し「アツい想い」をのせて陳情する。
って感じです。今回は最初の一歩の手段としていろいろ書きましたが、実は気持ちがあればすぐに誰でもできるのです。頂上が見えない山に登るのは誰でも躊躇します。でも、あそこを通ってあのタイミングからこうやって頂上を目指すとこれくらいの時間でいけるよ、ってわかれば、ちょっと登る気にもなるものです。そして諦めずに一歩一歩踏み出すことでいつかは頂上に到達します。パーク建設を山登りにたとえると、今回の「はじめの一歩」は登るべき山を調べること、そして必要な装備を準備をすること、ってステップになります。まずは「地元の町名+議会」で検索してどういうことが行われているか調べてみてください。あ、議会と市役所と市長はそれぞれどんなポジションかご存知ですか? 次回はそのへんからご説明しようかと思います。たぶん(笑)。
【プロフィール】
本間章郎 Akio Honma
東京都世田谷区出身。1980年代の第二次スケートボードブーム時からスケートボードに乗りはじめる。1995年、千葉県浦安市にスケートショップ「instant」を設立し、現在は吉祥寺店、千葉店、お台場店の4店を構える。日本スケートボード協会の競技委員としてコンテストのメインMCや審査員を担当。独自の視点でスケートボードの魅力を伝え続け、スケートボード愛好者の増加に努めている。