コラム 本間章郎 第6回:パークを作るってカッケーす 最終話

2019.09.16

「スケートパークはまだまだ足りない」

 

すっかりご無沙汰しており失礼しました。

前回のコラムの後に、実際に関わっておりました二つのパークの施工監督補助や完成検査やオープンイベントなどスケートパークの最終段階のステップが続いておりました。そこではまた新たな経験も出来ましたのでまたここでシェアさせてもらいます。

ひとつでも多く素敵なスケートパークができるよう、今までのコラムを読んでない方は改めて、読んでくれた方もちょっと時間が経ってしまったので改めてチェックしてみてください。 

 

最近、その準備段階から関わらせて頂きました二つのパークがオープンしました。ひとつは三重県松坂市のスケートパーク・ここは約4700平米の全国的に見ても最大規模のスケートパークで、ご理解ある市長のご応援も頂き、とても素敵なパークが出来ました。

 

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松阪市のスケートパーク

 

このパークに関わるきっかけになったのはローカルからのメールがはじまりでした。「松坂市にパークができることになりましたがその設計や施工が心配です。相談に乗ってもらいたい」って内容でした。その時の状況は、長年のローカル達の活動を経てついに役所でスケートパークの建設が決まり、役所は地元のコンサルさんに設計業務を依頼して、コンサルさんがローカル達とどういうパークにするか打ち合わせを始めた、って状況でした。

福井県も同じ。ローカルの代表がパーク建設の進行が心配でご連絡を頂いたところからスタートしています。

 

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福井健康の森スケートパーク

 

まずちょっと整理しますと、役所は多くの場合は自分たちでスケートパークの設計や施工をやりません。役所には企画課や土木課もありますが、建築工事の多く(ほぼ全て)は入札を経て民間業者に発注します。

そして多くの工事は、実施図面までの設計の部分と、施工工事の建設部分と分けて入札し、それぞれに談合など無いように公平に発注するようになっています。

ここで大事な部分は「設計」と「施工」は別の業者が担当する、ってことです。

 

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普通、自分で倉庫にパークを作ろうと思ったら、まずどういうパークにするか考えて、図面らしいものを作って計画し、それを作るために必要な材料を調べ、少しでも安い素材を探してホームセンターなどを回って調達します。

図面通りにコンクリを盛ったり、ベニヤを切ったりしてセクションを作ります。

作りながらちょっとズレちゃったりしても自分のさじ加減で調整し、少しでもスムーズに滑りやすく面白いようにイメージして作っていきます。

作った後も滑ってみて微調整が必要なところは削ったり盛ったりして、よりイメージに近いパークに育てていきます。

それがパークを作る普通のステップで皆さんもそう考えているかと思います。 

 

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しかし先述の通り、パブリックパークはその発案から竣工までステップが大きく違います。

設計までの担当は図面で作るものを縛り、落札した施工業者は図面通りのものを作ればいいのです。

合っているか間違っているか、需要があるか無いか、とかではなく、受け取った図面をそのまま作れれば良いのです。

プライベートパークとパブリックパークは、その計画段階から設計、施工と全てのステップでものすごく沢山の違いがあるので、パブリックパークが欲しい人はそのローカルに合ったやり方を考えないといけません。

違いは色々ありますがもっとも違うことは、パブリックパーク、企画、設計、施工と完成まであらゆるステップでスケートボードの事を全く知らない人がいっぱい居て、その申請、許可、検査、確認、など重要なステップはほとんどスケートボードを知らない人が行うケースがほとんどです。

当たり前ではありますが、ここはプライベートパークと違って本当に大きな違いであり、ローカル達の夢や希望を聞いてくれたとしても、それが正しく理解されて、正しく資料や情報となり、正しく図面化されるのか。

そしてその図面通りに施工されていくのか、また図面通りに作ったものが本当に皆さんが欲しかったものなのか、は全く未知数なのであります。

なので、ローカル達が何度も何度も打ち合わせして考えたパークのレイアウトやデザインも、完成してみたら「アレ?」ってなることも多く、また設計から施工の流れの中で、予算や工程や納期など様々な条件の変更により、最初のデザインや工程が大きく変わってしまうケースもあります。

 

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ここまでで公共スケートボードパーク建設がいかに皆さんが考えるパークの作り方と違うのかお分り頂けたかと思いますが、その中にも地元に根ざした慣習やネットワークによって実に様々微調整が必要なケースが多いのです。

もうお分りになったかと思いますが、設計と施工は違う業者が担当し、実施図面のやり取りで設計から施工にパーク建設の担当が変わります。

最初のコンサルさんは建設予定地の面積や敷地形状や条件、また場所によってはローカルの皆さんの意見やスタイルを加味してまず基本図面を作ります。

基本図は「こういう場所にこういう形状のこういうサイズのモノを」っていう説明図のようなものです。

基本図はとても大切です。

スケートパークのセクションの内容や配置や形状がここでほぼ決まってくるので、パークの使いやすさやスタイルやセクションサイズなんかはここの時点で決まっていきます。

例えばローカル達は普通のカーブボックスをいくつか欲しいのに、基本図で4mのコンビプールだけになっていたら決して突然カーブボックスができることはありません。

またカーブは40cmがいいのに図面で間違ってH400cmって書いてあったら高さ4mのカーブボックスができちゃいます。

僕らは「4mのカーブなんてできるわけないだろ!」って思いますが、図面を作る人も施工する人もスケートボードを知らない人だけで進めたら高さ4mのカーブボックスに疑問を抱く人もいないのです。

そして本当に作られます。

4mって極端の数字でなくても、ほんの数ミリの違いが僕らスケートボーダーにとって大切なことは自治体もコンサルさんも施工業者もまったく知らないし、説明してもご理解頂くのはもの凄く大変です。

また施工業者は図面通りに作って文句を言われるのを嫌がります。

嫌がる割には3D曲面の吹き付けが出来なかったり、Rの作り方がメチャクチャだったり、まあ完成したものにクレームがでなければそれで良いのです。 

 

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でも全ての業者さんがそう言う訳でもありません。

ローカルたちの声を聞き、世の中のパークを視察し検討し、素材やサイズも調べてベストを追いかける業者さんも居るでしょう。

それが設計業者だとすると、ローカルたちとそうやって作り上げた図面を実施図面まで作り上げても、入札を経て落札した施工側がパークの意味や作り方を理解できず、施工スキルもなく見た目は図面通りでも図面化できない表面の仕上げやセクションの施工処理など、技術的な問題があってローカルの思った通りのパークにならないケースもあります。

施工方法や工程、細かい部分や考え方などは図面化することはできない事が多いのです。

また施工技術は最高レベルでも図面がダメダメな場合では、落札した図面を変更するにはその数量や工程などが変わってしまい、そうなれば工事予算や施工期間も変わります。

基本的に図面をそのまま期限内に作るのが仕事であって、図面の解釈で調整できる部分には技術をいかせても、セクションの大きさや位置を変えたり、デザイン内容を変えたりすることは、今の入札制度では関連各所の協力なしにはものすっごく難しい。

自治体、設計、施工、とパークに理解があり、より良いものを目指す人たちが揃っていて初めて普通にパークが作られる、と言うことはストリートで滑っているスケーターたちは知らない人の方が多いのです。

もうお分かりかと思いますが、役所の担当者やコンサルさんにどういうパークが欲しいのか伝えたら皆さんがイメージする良いパークができるとは限らないのです。
 

またもうひとつ重要なことがあります。

それは皆さんローカルのネットワークのことです。

今回はいかにパークをイメージ通りに作るのが難しいのか、って事を書いているのでここもちょっと辛口で書かせて頂きます。

もちろん上手にやっているところもありますので、全てがそうとは限りません。

 

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さて、みなさん設計から施工にバトンタッチする際に色々と注意しないとイメージ通りのパークができない可能性が高いことに気がつきました。

最近では自治体から依頼されたコンサルさんが基本図を作るときに地元の愛好者に声をかけるケース、または市民からの陳情などでパーク建設が決まった場合はその代表者に設計や運営管理に関して声をかけるケースが増えました。それを「あなた」だとします。 

では「あなた」は誰ですか?

ローカルライダー達をまとめてシーンの発展を願うローカル代表ですか?

いくつもあるローカルグループのひとつで毎日キックアウトされながら滑り続けるスケーターですか?

それとも自分はスケートボードはしないけど、子供がハマって何年か経ってコンテストとかにも出るようになったキッズスケーターの親御さんですか?

それとも最近のスケートブームや誰かのこういう活動知ってパーク建設の陳情をかって出た昔スケートボードをやっていた市民の方ですか?

今回の「あなた」はだいたいこれらのケースに当てはまるのかと思います。 

ではその「あなた」が自治体やコンサルから依頼されてパーク建設のお手伝いをすることになりました。

まずはイメージ図や基本図を作るところから始まっていくかと思いますが、自治体やコンサル会社の担当者からヒヤリングを受けることもあるかもしれません。そのヒヤリングで「あなた」がどれだけ地元の愛好者たちがパークを熱望しているか、と言うことだけでなく、スケートボードシーンの事を知っているか、スケートパークに関して知識や経験があるか、コンクリートの施工や木工や鉄鋼のセクション作りをどれだけ知っているのか、現在のシーンの流れを理解しているか、などそれらによってそこから先のステップもパークの仕上がりも変わってきます。

さらに言うと「なぜあなたなのか?」と言う人選は、陳情などの流れや単なるタイミングで決まることも多く、「あなた」がどれだけベストな人選かどうかを自治体やコンサルは自分達の経験や実績から判断することができないのです。 

 

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僕はこれまでに「地元代表」って方から沢山のご相談を受けてきました。

僕もそう言う立場で活動を続けていた経緯もあり、全国のローカルの代表者の存在をとても誇らしく嬉しく思っています。

タダでさえ予測ができないスケートボーダー達をまとめ、パーク建設に向けて進むのは相当大変だと勝手に思ってます。

ただひとつ気をつけたいのは、そういう地元の「あなた」であるからこそスケーター以外に面倒くさい地元の上下関係とか無いですか?

例えば自治体が「このままじゃどうしても予算が足りず、このセクションを2つ削っても良いですか?」って言われた時に、「セクションが減ってもこれまで無かった待望のパークができるのだから我慢しよう」って思ってしまいませんか?

「ゼロよりイチ」が前進だと思いますか?もしそうだとしたらちょっと考えてみてください。

パークのセクションはその全てが意味があってそこにそのように存在します。

その形状、サイズ、素材、全体とのバランス、位置方向、などなど、1つのセクションがそこにあるのにはとても考え抜かれた意味がある。

予算や時間が無いから、とその2つがバサッとなくなってしまったら、パーク全体のバランスは崩れないですか?

変に間隔が広くなってトリック出しにくく無いですか?

それでも一度了解してしまうと図面を作り直す時間やコストがなければ受け入れるしかありません。  

完成したら多分スケート好きのみんながそれに気がつきます。

ローカルだけじゃなくスケートパークができると近県や他方から沢山のスケーターがやってきます。

イベントやコンテストも開催されるかもしれません。それでも削られたその2つのセクションは要りませんか?

それが無いならそのパークを作る意味が薄れると思いませんか?

多くのケースで今の時代は「はじめて地元にパークができる」、「●●市で初のスケートパーク」であるケースが多く、自治体もコンサルもどう言う判断基準でパークのコンサルタントやコーディネーターやアドバイザーを選んで良いのかもわからないのです。

ローカル代表の皆さんは沢山の情熱とスケート愛がなければ多分そこまでも来れていないはずです。

しかし、パークが完成した後に何か疑問や問題があると、何が原因か、誰の責任か、を徹底的に掘られるケースもあります。

その鉾先が「あなた」に向かないと言う確約は無いのです。 

 

さて、ちょっと駆け足で説明してきましたが、パブリックパークはノリと勢いだけで突き進まないのがいいのはお分り頂けたかと思います。

もちろん上記のような状況だけでなく、役所の担当がスケーターでパークやシーンの状況を詳しくわかっていたり、コンサルさんがものすっごくスケートボードを応援してくれて分かろうとしてくれたり、とか、場所も予算もすっごく潤沢なケースもあるかもしれません。

注意しなくてもパパーっとかっけーパークが出来ちゃう事も、反対に物凄いダメダメパークになる可能性もあるのです。

ならば皆さんの大事なスケートパークが出来そうだ、ってタイミングではどうするのがいいのでしょうか?  

僕が今まで関わってきたパークの周辺環境や役所やコンサルやローカルたちをみて思うことは、ローカルや代表者の方は「自分(たち)だけで進めない」ってことがとても重要なのかと思ってます。

パークができることが決まると、どんな場所でもローカルたちは嬉しくなって「パークを作ってくれてありがとうございます」って気持ちになります。

それ当たり前。

で、実際にパークを作るステップになってくると、セクションの形やサイズや位置はどうするのか?

なぜそこにそれがそのように設置されるのか?

カーブの高さは?コーピングのパイは?

素材は?など色々な事を決めて行く事になります。

そうしないと先に進みませんから。

で、ローカルたちは頑張っちゃう。

沢山の意見をまとめて自分たちが楽しいパークを考えて、毎晩のように集まってお絵描きします。

では「あなた」はH1500の2300Rのクォーターランプから、天板が2.5mでH600、バンク面2400のバンクtoバンクをドロップからプッシュを入れずに気持ち良く跳べる為には、クォーターとバンクtoバンクの間隔はどれくらいがいいと思いますか? 

もう基本図面が出来ちゃうと落札した施工業者が図面通りに作っちゃいます。

コンクリーの打設だと一度作るともう動かすことは通常は出来ません。

その間隔や位置関係を役所もコンサルも施工業者もみんなスケートボーダー的に適切な数値を知らず、WEBで調べても他のパークに視察に行っても責任ある数値が見つかることは稀なことかと思います。

そしてそれらすべてを「あなた」の責任で決定して行くことはとても勇気がいることでしょう。

土間への擦り付けやコーピング下の仕上げや水抜き勾配や適切な照明は何ルクスか、とか誰も知らない、誰も責任取れない状況でパーク建設は進んでいくのが残念ながら今の日本ではよく見るケースなのです。 

 

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で、ちょっと前の話に戻ります。

「自分(たち)だけで進めない」って事は、少しでもいいパークを作る為にとても重要な事なのです。

では、自分たちだけでない誰に入ってもらうのがいいのでしょうか?

日本には現在、とても素敵なパークが増えてきています。

色々な広さで色々な装備のパークが全国的に増えてきました。

「あなた」が好きなパークもあるかもしれません。

もしあったらそのパークが企画段階からどうやって完成に至ったのか、を徹底的に調べてみてください。

ローカルたちはどういうネットワークで行動したのか、役所の担当部署はどこか、コンサルはどこでどうやって基本図を作ったのか、入札はどう行われどこが落札したのか、落札業者は自分の会社で作ったのか、下請けが施工したならばどこの施工業者か、などなど、調べてもわからないことは多いかもしれません。

 そして「専門的な知識や経験がある人を入れてもらえないとよりパークを良くする事が難しい」と自治体の担当者に言うのです。

自治体は予算と計画が決まった以上、税金の無駄使いは一番避けたいところです。

コンサルがスケートパークの経験が無い以上、頼りになるのは地元愛好者代表しかいないのです。

 

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「あなた」がスケートボーダーとしたら、良いパークを作るために一番できることはなんでしょう?

僕の勝手な意見では、他のエリアのローカルたちと滑ること、話すこと、ネットワークを築くこと、なのかと思ってます。

 

スケートの話だけじゃなく、地元シーンやパークなんかの情報もシェアして行けばいいのです。

そうやって全国的にローカルたちが繋がっていけば、もっともっと日本中に素敵なパークが増えるでしょう。

オリンピックとかカルチャーとかもう関係ないです。

僕らスケートボーダーにとって、ひとつでも多く素敵なパークが家の近くに増えることがこれからのシーンを活性化させ、日本のレベルを引き上げ、さらにスケートボードが楽しくなって行くステップになると思ってます

「素敵」は人によって、ローカルによって、スタイルによって、実に様々な捉え方があります。

正解は1つではありません。

最後になりますが、この「パークを作るってカッケーす」っていう連載を締めくくってほしい、と編集サイドからお達しがありまして、コラムとしてはここで終了となりますが、スケートパークに関して「公共パークを作ることは決まったけどこれからどうしていいかわからない」など疑問質問がある方はSPOT SKATEBOARDINGかインスタント各店を窓口に僕までお問い合わせ下さい。

僕の経験が全てではなく、もっと効率的に、もっと楽しく、素晴らしい結果を出しているところもあるでしょう。

ただ今の状況を見ていると、どうしても心配でたまりません。プライベートパークのゴールは「作った人が納得するパーク」です。

「みんなに楽しんでもらいたい」って思ってパークを作ればそれがゴールであり、「こういうセクションあったら超楽しそう」と思うのであればそれを作るのがゴールです。

しかし公共パークは税金で作られます。

公共パークには色々なケースがありプライベートパークとゴールが同じでは無いケースも多々あります。 

 

 

自由度が高い公共パークが増えて行くことは日本のスケートシーンが世界に並ぶスタート地点です。

もうスキルやスタイルでは世界の第一線に素敵なスケートボーダー達を送り出している日本ですが、日常のスケート環境やパークの数や内容、カルチャーへの理解、など沢山の点で未だ後進国と言わざるを得ません。

ひとつでも多く素敵なパークが増える事で、スケートボードへの理解を深め、ライダーは機会や経験の増加でスキルに磨きをかけ、パークをハブにしてスケートボーダー達のネットワークが広がっていきます。

ひいては日本のスケートシーン全体の活性化を促進するでしょう。 

 

・・・なんてショップの片隅でずっと考えている今日この頃です。 

 

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