INTERVIEW:本間章郎 カルチャーはローカルから生まれるもの
2018.05.01
老舗スケートショップ「instant」のオーナーであり、国内の名だたる大会のメインMCや審査員を務める本間章郎さん。全国のスケーターたちと親交をもつ業界のご意見番は、今の日本のスケートシーンをどう見ているのか? そして、次に何を仕掛けようとしているのか?
ー 今日はよろしくお願いします。写真も撮影させていただければと考えてまして…。
そのレンズ良いね。俺、フィルムカメラの時代にずーっとスケボーの写真撮ってたの。雑誌にも何度か使ってもらったよ。今のカメラは全部デジタルだよね。フィルムの時代と比べるとコストもかかんないし、早いけど……なんだかおもしろくはなくなったよね。
ー フィルムと比べると、デジタルは味気ないですか?
うーん、味気ないっていうか……効率的だよね。今の世の中の象徴っていうか。今はみんな、買い物もAmazonとか楽天なんかを使うことが多いよね。効率的になりすぎてると思う。
けど、スケボーは効率化できないと思うんだ。たとえば今日、20時間部屋のなかで勉強しましたと、効率的にね。「オーリーのやり方」みたいな本を読み込んだり、ネットで動画を見まくったり。だからといって明日オーリーができるか、上手くなるかっていうと、そんなのなるわけない。それがスケボーのおもしろいところだよね。
ー 話は変わるんですが、スケートショップ4店舗を経営ってすごいことですよね。
俺じゃなくて、instantのみんながすごいんだろうね。俺は全部の店には立てないから。店をはじめたときはほんとに何も分かんなくて。とにかくスケボー好きだからスケボー屋しかないなって思って、サラリーマン辞めてはじめたんだけど、帳簿の付け方も知らないし、店の作り方も知らない。ハンガーすらどこで買うんだって(笑)。貯金もゼロだったからね。
それでも、いろんな人のおかげでなんとかうまくいって、店も軌道にのったから2号店のことを考えはじめたんだよね。でもやっぱり心のどこかで「うまくいくかな」って思いがあって、ものすごく悩んだのよ。そんな時、吉田ってスタッフが俺に「僕はスケートボードで食っていきたいんです」と言ってきて。「じゃ店やろう、吉田が2号店の店長で」って(笑)。ちょうどいい物件が空いてたから、超早かった。ただ、大変だったなー。2年位は赤字だったね。苦しいなか毎日、どうやったら人が来てくれるのか、何を求められているのか、そこのローカルの特徴はなんなのかをずっと考えて、果てしなく追求していったね。
いろいろあって、今は4店舗もあるからちょっとうまくいってるように見られるけど、あんまりあのころと変わってないかな。ローカルベースで、ゲットー育ちのやつらとスケボーのことだけ考えながら、ずーっと這いつくばってやってるよ。
ー instantは、かなり早い時期からオンラインショップをはじめましたよね?
サラリーマン時代に培ったパソコンやネットの技術があったから、95年に1号店を開いて、翌年にはオンラインショップをはじめてたね。その当時、新宿のジャブジャブ池で一緒に滑ってた仲間が「COMMOTION」っていうポータルサイトをやるっていうから、一緒に組んでやろうって。日本で一番早かったんじゃないかな?
Yahoo! JAPANとかGoogleなんかの検索エンジンもなかったし、当時の一番有名な検索エンジンを使って「スケートボード」を検索しても38件しかヒットしなかったからね。そもそも、まわりでパソコン持ってるやつなんていなかったし(笑)。そんななかでスケボーのオンラインショップをはじめたわけだから、「なんでやるの?」とか「誰かから頼まれたの?」とか聞かれるわけなんだよ。でも、そういうことじゃないんだよね。
スケボーもそうだよね。転べば痛いし、うるさいし、迷惑だし、極論いえばやらなくていいじゃん? それでも「なんでやんの?」って聞けば、人それぞれ答えをもってる。そこに人生突っ込んでもいいやって思える答えがあるんだよね。
ー 何ごとも無理だと思ったら無理になる。できるって思ってたら、できるようになる、ってことをスケボーから学びました(笑)。
そう、それ! その通り! スケボーやってる人たちは、みんなそれを知っているんだよね。それに、ライダーそれぞれであなたのような答えをちゃんともっている。これってすごいことだよね。
でも本当はね、「なぜやるのか?」なんてどうでもいいんだ。スケボーほど無駄でカッコイイものなんか他にないんだから。それだけだよ。だけど残念ながら今は、そのカッコよさを発信したり、体現したりできる人って少ないんだよね。
大会に来てる小学生とかに好きなライダーを聞いても「いない」って言うもんね。ごくまれに「スティーブ・キャバレロです」って。嘘つけ、それはお前の父ちゃんが好きなライダーだろって(笑)。まぁそういう一種の“伝承”になってるのかもしれないけど。
今はローカルのネットワークが機能してないからカルチャーが伝承されないよね。前みたいにスポットに行っても怖い人いないでしょ。キッズスケーターのまわりに優しい大人しかいないから。そこからはソリッドなカルチャーって生まれないよね。ぬるくなってゆるくなって、うまけりゃそれでいいってなってる。
でもね、誰かが「ふーん、うまいね。でもダセェよ」って言ってあげないといけないと思うんだよ。うまいより、カッコイイの方が価値があるんだってね。
ー そうした流れは、コンテストだととくに顕著に見えますよね。
そうだね。ただコンテストのMCの立場としては今の話、全部ダメだけどね(笑)。
でもまぁ、最近の子はみんなスキルフルだよね。うなるくらいうまい。
ー 最近のキッズは昔と比べてワンランク上がってますもんね。
そうだねー、昔とぜんぜん違う。ただいくらうまくても、東京から少し離れるとみんなノースポンサーなんだよね。それって問題だと思うんだよ。スポンサーがつかないから、親が一生懸命、通販でパーツとかを買い与えて滑らせてあげるみたいな。それはちょっと歪んでる気がする。ちゃんとうまくてカッコいいやつは、いいとこまでいけるようにしてあげたいなっていうのをここ何年かずっと思ってるんだよね。
ー 今の日本でのスケートボードの「プロ」についてどう考えていますか?
世界ではシグネチャーモデルが出ることが基準になっているなかで、日本ではAJSA(日本スケートボード協会)でライセンスをもらえるとプロっていう人もいっぱいいるよね。
俺はAJSAの人間だけど、ライセンスはゴールではないと思っている。ただ、それをもつことで自問自答するきっかけになってほしいかな。なんでライセンス出してるかっていうと、「がんばれよ、これがスタート地点だぞ」って思ってほしいからなんだよね。これは協会の意見じゃなくて、俺の意見なんだけど。
そういうのもあって、もう言っちゃうけどHIBRIDの早川大輔ともう一人と3人で会社をつくって、アメリカの「Damn Am」を日本で開催するの。日本のうまいやつをアメリカのシーンのど真ん中に送りたい。ここで勝つと、「Tampa Am」に出れて、そこから「Street League Skateboarding」にも出れる。堀米雄斗が何年もかかったところへ1年でいけちゃう。
AJSAとはスタンスも目的も違う。オフィシャルだからMCも英語だし、ジャッジも外国人だし。でも北海道に住んでようと沖縄に住んでようと、自信があればここ日本で腕試しができる。スケートボードで何かを成し遂げたいのなら、絶好の機会になると思うね。
ー 世界との距離が近づきますね。夢があります。
うん、まさにそう。協賛してくれる人たちや支えてくれる人のおかげだね。かなりミラクル。
ー これは燃える子は多いでしょうね。
そうなってもらいたいね。AJSAのコンテストに対して「ヘルメットかぶるの嫌なんだよねー」とか「キッズばっかりのところでカッコ悪いよねー」とか言ってる人がいるんだけど、「Damn Am」はノーヘルだし、世界中からうまいやつが集まるから、じゃあこっちで自分の腕を試してみろよってね、言ってあげたい。
ー 現在、instantでサポートしているライダーはどれくらいいるんですか?
結構いるね。えー25人くらいかな? 基本的にはご縁があってサポートしているライダーばかりなんだけど、入口はいっぱいあるよ。たとえば「スポンサーしてください」ってビデオ送ってくる子もいる。そういったビデオは全部きっちり観てるし、その上で連絡したり、しなかったり。重要なのはうまいへたとかじゃなくて、お互い楽しくなれるかどうかってことかな。
さっき「ご縁」って言ったけど、これはつまり自分のローカルを大事にできるかどうかだよね。自分は何者かってこと。カルチャーはローカルから生まれるものだから。ローカルスポット、ローカルライダー、ローカルショップ、この3つがないとその土地にカルチャーは生まれない。田舎でスケボーをはじめて、通販でスケボー買って、がんばってうまくなった。けれど、そこにどれだけスケボーのカルチャーがあるのかっていうと、誰も答えられないよね。
うまいやつはそこから出て、もっとうまいやつに会いに行ったりする。そうするとそこから繋がりが生まれて、それがどんどん広がっていく。そういうのがカルチャーなんじゃないかなって思うんだよね。最近はInstagramにフッテージ上げて、スポンサーしてくださいって話もあるんだけど、それはローカルにならないし、カルチャーも生まれないと思うんだよね。
ー それはある意味では、ネットが発達しすぎた弊害なのかもしれないですね。
そうかもしれないね。だからローカルをつくるためにショップをつくる。ショップは金もかかるしリスキーだけど、効率を追い求めてネットでモノを売るだけってのはちょっと俺は違うんじゃないかなと思うんだよね。ローカルをつくらないとカルチャーがなくなって、スケボーそのものの未来もなくなっていくよなーって。
だから今はパークの設営にも力をいれてる。パークができれば滑る人も増える、そしたら店が1つできるくらいのカルチャーが生まれるかもしれない。そのショップで働くやつがスケボーで飯を食っていけるかもしれない。そうなったらめちゃくちゃカッコイイじゃん。だから生きてるうちに、いくつパークをつくれるかがミッションだと思ってる。
ー 今回の話は全スケーター必読ですね。
だと思うね。これはぜひみんなに伝わってほしいね。
【プロフィール】
本間章郎 Akio Honma
東京都世田谷区出身。1980年代の第二次スケートボードブーム時からスケートボードに乗りはじめる。1995年、千葉県浦安市にスケートショップ「instant」を設立し、現在は吉祥寺店、千葉店、お台場店の4店を構える。日本スケートボード協会の競技委員としてコンテストのメインMCや審査員を担当。独自の視点でスケートボードの魅力を伝え続け、スケートボード愛好者の増加に努めている。
■ 店舗情報
instant skateboard shop 浦安店(インスタント スケートボードショップ浦安店)
住所:千葉県浦安市北栄1-15-5 3F
(地図)
連絡先:047-381-0968
営業時間:12:00~20:00
定休日:年中無休(大晦日・元旦は休業)
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