コラム ホモロー 第2回 :はじめてのビデオの話

2018.06.15

はじめてのチューは鴨川でした…。どうもボードウォークのホモローです。

 

アダ名は奇天烈ですが、相手はちゃんと異性でした。あ、僕の初チューなんかど~でもいいッスね。きしょいッスね。皆様におきましては、前回の駄文ですでにウンザリなされてることかと思いますが、「連載」って書いて字の如し連続で掲載するってことみたいなんで何か書かなきゃいけないんですよね。ど~も寝付けないという方は、あまりの駄文で数秒で寝れると思うのでどうぞお付き合い下さいませ。

 

あなたが初めて観たスケートビデオは?

さてと本題。はじめて観たスケボーのビデオもしくはDVDって何ですか?

 

タイトルはもちろんですが、誰が出てるとか、あのビデオのこのシーンに憧れたとか……2本(枚)目以降に手にしたビデオやDVDより、やっぱり1本目って鮮明に覚えていることが多いのではないでしょうか?

 

これだけ情報が氾濫してる現在でも、スケボーの世界って複雑でよく分からないことも多いですし、ビデオは大切な情報源ですよね。かといってお財布事情のシビアなキッズ時代に次から次へと買うこともできないでしょう。

 

だからこそ、1本目のビデオorDVDって貴重だと思うんです。鳥が産まれて最初に見たものを親と思ってしまう「インプリンティング現象」に酷似したモノスゴい刷り込み効果があるように感じませんか?

 

実際、スケボーの世界のなかでは、初対面のスケーター様に「はじめて観たビデオは何?」っていう質問に対する答え方で、お相手がたとえ外国人さんであっても、大まかな年齢層やスケートスタイルの好み、なんなら好きな音楽のジャンルまで瞬時に分かりますし、その質問がきっかけでスケトークが止まらないことも多々あるはずです。

 

僕自身、昔からスケートボードビデオやWeb動画の撮影や編集をしてるので、とくに映像カルチャーとしてのスケートに注目してしまってるのかも知れませんが……それこそ「はじめてのチュー」に等しいぐらい、初体験のビデオは個々の性格やスケートスタイル、ライフスタイル、感性などに大きく影響を与える、モノスゴくシンボリニティックなモノであると僕は思っています。

 

87年に発売されたスケートビデオの名作『The Search for Animal Chin』

ちなみに僕がはじめて手に入れたスケボーのビデオは『The Search for Animal Chin』です。邦題に置き換えると『アニマルチンを探せ』。

 

ググってみたら、実に31年前の1987年。発売元はパウエル・ペレルタ社。当時、最高峰の撮影技術と予算、そして最高峰のプロライダーたちが総出演していたビデオです。お若い読者の方々は、昔のビデオ過ぎて知らない方が多いと思いますので、簡単なストーリーをご案内致しますと……

 

スケボーの神様アニマルチンが、突然失踪する。そこでスケボー大好き野郎が集結してできた通称“骨軍団”が世界狭しとチンを探す旅へ。旅も大詰めを迎え、果たしてチンは見つけられたのか!? って感じ。

 

文章で数行、浜村淳やったら8分ぐらいでオチまで全部言うてまうみたいな単純な物語。字幕ナシで観てるだけでも全然楽しめる、痛快スケボーロードムービーなんです。少し長いですが、お時間がある方はぜひ全編ご覧になられることをオススメします。

 

 

当時の僕は11歳? 12歳かな? 一丁前の小中学生でした。友達のパパの海外土産としてこのビデオをもらったその日から、このビデオに脳天スパークさせられて、テープ擦り切らすほど観てました。なんならもう一回買った時、また擦り切らすのが分かってたんで、あらかじめダビングして観てたほどです。

 

マジで観まくってました。朝起きたら、ビデオプレーヤーの再生ボタンを押して観て、学校行ったらTV爆音にして録音した作品内の音楽(オカンが食器洗ってるカチャカチャって音と飼い犬の鳴き声入り)をウォークマンでひたすら聴いて、家帰ったらビデオの再生ボタン押して血管切れそうなぐらい気持ち上げて、近所滑りに行って、腹減って家帰ってメシ食うたら、自分の部屋こもって寝てまうまで何回も巻き戻して、お気に入りのシーン(作品開始から3:31あたり)を何回も観て……(「朝起きたら」がリピートする)

 

spotskateboarding

 

まずはこのシーンに注目です。「スケボーは金になるし、脳みそ飛び散った血みどろの絵をデッキにプリントしてガキに売ってりゃええねん」みたいなこと言うてる放送を観たパウエル社の社長さん(パウエルさん)がブチ切れて、TVを家の外へ投げ飛ばす場面。

 

当時(今でもやけど)、英語なんてサッパリやった僕は「ヘイっ!!」だけ聴き取れたんで、粗大ゴミ置き場にTV捨ててあるって情報を得たら、フルプッシュで現場に行って友達数人と「ヘイっ!!」って叫けびながらTV投げるんをひたすら真似してました。

 

お箸で茶碗を叩いて楽器変わりにするシーンに憧れて、それを真似したらオカンに烈火の如く怒られて、怒られてんのに次の日もビデオ観てテンション上がってまた真似して怒られて……の繰り返し。

 

当時の僕は、フラット(平地)でのオーリー(ジャンプ)を必死に練習してたんですね。ただ、今みたいにスケボーの動画や情報に恵まれてなかったので、何をどうしたら飛べるのか分からなかった。ジャンプ台を飛び抜けたら、そりゃ飛んでいくのは何となく理屈的に分かるけど、グラブ(デッキを手で握る)なしで、とにかくフラットでスケボーの力だけでジャンプするってどういうことなんやと。とにかくオーリーの動画が観たくて、サンフランシスコのチャイナタウンを流すトミーゲレロのたった数秒のオーリーシーンだけをずっと再生してました。

 

そして……エンディング(1:01:30あたり)。

 

 

その後の僕の人生、モテへんし、フラれるたびに友達を無理矢理呼び出しては、焚き火して、ソーセージ焼いて、しんみり語る……その時もこのビデオのエンディングの一幕を思い出して真似してた。で、この感じを真似れたことになんとなく満足して、フラれたことなんかど~でもよくなっていく。

 

はたまた、少し大人になってはじめてハワイ行った時。このビデオの冒頭に登場する、“ワローズ”っていうバンク(急な坂)スポットを見た過ぎて、現地を案内して下さったプロサーファーさんに「(観光で)どこ行きたい?」て聞かれて、「1つしかありません。とにかくワローズに行きたいです」って言うたら、ただの山の上の坂なんで、マジで気持ち悪がられて……。

 

このビデオ語り出したら、もう止まらないんです。滝のようになんぼでも言葉や思い出が降り注いでくる。とにかくスケボーキャリアがはじまった12歳から数年間。いや、オッさんになった現在に至るまで、僕の生活の中心にずっとアニマルチンがいてました。いや、今でもチンを探してる最中なんかな?

 

前回、あらかじめお断りさせて頂いたように、僕は鬼の凝り性で、ヲタでハマったら帰って来ないタイプの人間なので行き過ぎかも知れませんが、おそらく僕だけじゃないと思うんです。遠く海の向こうのアメリカで、僕と同時代を過ごしたスケボーキッズたち(現在はオッさん)は、間違いなく今でもアニマルチンを探していることでしょう。

 

同作品内のこのワンシーン。数分ほどをご覧頂けますか?

 

 

チンを探してサンフランシスコを流す骨軍団ご一行。チンの存在に気付かず、仲間とジャンプ台を運んで次のスポットへ向かいます。

 

全然関係ないですけど、スケボーにジャンプ台を乗せて運んでる黄色のジャケットを羽織っているスケーターは、現在REALやKrooked、Thunder、SPITFIRE、ANTI HERO等々を運営するDLX社のお偉いさんであるジムシーボーさん。

 

おっと話がズレましたが、上の動画ちゃんと観てもらえましたか?

 

サンフランシスコの街を颯爽と流す骨軍団の面々のスケートは、いま観ても全然色褪せてませんね。当時のスケボービデオは、まだバーチカル(ハーフパイプ)の映像がメインで、家の近所のただの道や公園でスケボーに興ずる、いわゆるストリートのシーンは貴重だったんです。

 

当時、僕と同い年ぐらいだったストリートスケボー大好き少年は、きっと食い入るようにこのサンフランシスコのシーンを観てサブリミナル効果でアニマルチンを探してたはずです。

 

インプリンティングされたスケボー大好き少年のなかには、その後世界のトッププロスケーターに成長した子ももちろん存在します。

 

皆様は「Girl skateboard」はご存知ですか? 現在、当店のライダー森中一誠が国内では唯一サポートを受けさせて頂いているスケートボードブランドですが、同ブランドが鳴り物入りで発売した1stビデオ『Goldfish』。90年代初頭、世界最高のプロスケーターが全員集合し、当時一番最先端で、ビンビンにツンツンに勢い&影響力があったビデオでした。世界で最もナウい滑りを連発し、古臭さなんて一切感じさせない、いや過去のスケボーシーンを一掃するぐらいのパワーがありました。

 

正直、再生すると「スケボー辞めたろかな……」って思うぐらい、ナウな滑りをコレでもかと観せられて。各パートの後には、息抜きなのかな、次のパートまでの間に少し気持ちを落ち着けることのできる短編映像が挿入されていたのですが、当時ナウ線ど真ん中の「De La soul」の曲で登場し、無双状態の、鬼ナウの、マイクキャロルのパートでヘロヘロにされた後の息抜き短編がコレ。

 

もうお分かり頂けましたよね?

 

 

当時、古臭いスケボーシーンを排除して、2本の足とそこらへんの道だけで鬼ナウい滑りをしていたように見えた彼らですが、チンの影が現れるシーン、ジャンプ台を運んだり、ウォール(壁)で遊んだり、オマージュがすごいですよね。もちろん、『Goldfish』の監督・スパイクさんや他のスタッフさんの意見、脚本や演出はあると思いますが、ビンビンにナウい彼らが嫌だったらこのシーンは生まれなかったでしょう。僕個人の妄想としては、インプリンティングが如実に現れた、とてもおもしろい映像ではないかと思っています。

 

今回は、1つだけを例にとりましたが、作品内に登場する「アニマルチンを見掛けたか?」のポスターデザインも、現在では数えられないぐらい真似され、いろんなブランドからスケボー関連商品が出ています。オープニングの青い画面から骨が出て来るシーンも同様にこの通り。

 

 

今は、動画共有サイトがあってモノスゴく便利です。今回の駄文で紹介した映像も、わざわざ家からVHSテープを引っぱり出さずに紹介できましたし、僕自身もスケボーもスケベーも含め動画サイトを観ない日なんてありません。

 

昨今、スケボー動画の世界もダウンロード販売が増えてきて、コレをお読みの若いスケーターの方のなかには、もしかしたら“物体”としてスケボーのビデオやDVDを買ったことなんて無いって方も多いと思います。

 

しかし、当店は無論のこと、皆様のお住まいのお近くのスケートショップ様でも、いまだにスケボーのDVDは置いてらっしゃると思います。有り難いことに、VHSビデオの時代に比べれば、ほとんどの作品が安価で手に入ると思いますので、あえて1クリックの便利さを排除し、インプリンティング体験にトライしてみることで、スケボーのまた違ったおもしろさを知るきっかけになるかもしれません。

 

最後に、自称・アニマルチンマニアの僕が、「俺はこのプロを絶対応援する」って心に誓ったオススメシーンで駄文を締めくくります。

 

滑り疲れて、ピンクモーテルのベットでくつろぐ骨軍団。会話のなかで、トニー・ホーク君がフェンスを特大オーリー(ジャンプ)で飛び越した回想で、超盛り上がってみんなで枕を投げたり握手をしたりするシーン。

 

画面一番手前、黄色いショーツを履いてるスティーブ・キャバレロさんの差し伸べた両手に注目して下さい。

 

 

当時でも、今でも、画面のなかに登場するプロは憧れの存在。そして、神のような伝説のスケーター。いや、ただの神。神以外の何者でもない神。

 

そんな神が差し伸べた手でさえも、あっさりスルーされてしまう妙な人間ぽさが、僕の心の一番やわらかいところをグリグリ突いて……モノスゴく好きになってしまったシーン。

 

はじめて全財産をはたいて買ったプロボードは迷わず彼のモデルを買いました。コレもインプリンティングなんかな……?

 

もう、この深さまでくると、誰も読んでませんね? 寝むれなかった貴方も、もうイビキかいてますね? 今回はこの辺で。おおきに。

 

【プロフィール】

荒川雄介 Yusuke Arakawa

1976年1月18日生まれ。長年、京都のローカルシーンを牽引してきたSUN FLOWERのライダーであり、BOARD WALK SPORTS KYOTOの店長。豊富なスケートの知識で、数多くのスケートビデオの制作にも携わっている。

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