デッキテープもトラックも漆塗り!日常使いしたい日本のスケボー
2019.09.03
「家業に戻ってきた時、まず最初にスケボーに漆を塗ろうと思ったんですよ」。
そう語るのは、京都の漆屋・堤淺吉漆店の堤卓也さん。これまでも「伝統工芸 × スケボー」ってあったけど、古典的な絵(蒔絵)が描かれていたり、カラフルだったり、正直あまり惹かれなかった……。
けど、堤さんの作るデッキはシンプルで普通にかっこいい。というのも、取材より先に“波”を優先しちゃうほどのサーファーである堤さんは“こっち側の人”でもある。
漆を焼き付けたトラックや自然素材だけのデッキテープもあるらしく、お話を聞いてきました。
ー 堤さんは、スケートボードのギアに漆(うるし)を塗られていると聞いて来たんですが、実際にどんなものを作っているんですか?
大きく分けて3つあります。デッキ、トラック、それにデッキテープの代わりになるようなものですね。
ートラックに塗ったり、デッキテープ代わりにも漆が使えるんですか?
漆って実は便利な素材で、木以外にも定着するんです。自転車のフレームに吹き付けたら、なんとも言えないかっこよさがあって、じゃあトラックにもやってみようかなと。これ、むちゃくちゃかっこよくないですか?(笑)
漆が吹き付けられた飴色のトラック。これぞダンディズム。
別の角度から。光のあたり方によって表情や印象が変わる。
ー 渋っ!! 中世の甲冑みたいですね(笑)。漆はすぐにはがれたいしないんですか?
漆が強固に接着するように、漆を塗った後に釜に入れて焼き付けています。自転車のフレームなどに漆を塗る人はこれまでにもいたんですけど、だいたいが展示作品のためでした。つまり、日常使いを想定していないんですよね。僕自身はサーフィンがメインなんですが、街乗りとしてスケボーも乗るし、ちゃんと日常使いできるレベルのものを作りたかったんです。
ー なるほど。単なる“見せもの”じゃなくて、使えないと意味がないと。
はい。とくにスケートボードって手軽さが魅力だと思っているんですよ。漆って一般的には「高級品」っていうイメージがありますよね。実際にお椀ひとつでも、職人さんが作るとウン万円してくる。けど、漆って昔はもっと身近なものだったし、まだまだ可能性のある素材だと思います。その良さを手軽なスケートボードを通じて、多くの人に届けられないかと思っています。
ー やっぱり、ガチの職人さんが作ると、お高いんですか?
そうですね、これは京都の蒔絵職人さんと作った展示用のデッキなんですが、正直、値段はつけられないです。金粉や銀で盛り上げたり……バッキバキでしょ?(笑)
蒔絵を施した高級ライン。デッキに漆を何層も重ね、膜厚を出している。
「あえて値段を付けるなら……」と聞いてみたら、軽自動車が買えるぐらいでした。
ー この輝き、ずっと見てられますね……。けど、値段を聞くと漆に気を遣ってしまって乗れないですね。親に怒られちゃいますよ。
そーなんです。スケートのデッキって、早い人だと2週間とかでダメになっちゃうじゃないですか。むしろ、ボロボロになっていく傷が味わい深かったりする。だから、逆に傷をつけてもOKな漆のデッキを考えてみたんです。
「日常使いできるもの」として考えたのがこちら。
漆でリペアすれば、普段の持ち方や乗り方が、痕跡として残っていく。
ー これは、さっきのものに比べて色が薄めですね。
漆って、「塗る」だけではなく、「摺る(する)」っていう手法もあるんですが、これはその仕上げ。木目を生かすことができるし、価格も落とせる。漆でリペアすれば、傷の層が浮き出てくるし、これっておもしろいなと。一般的なデッキのグラフィックって、一度傷が入ったら消えていくものだけど、漆ならデッキに入った傷もデザインみたいになるでしょ。
ー たしかに、傷もデザインみたいですね。
普段どんなスライドをしているのか、その人の乗り方によって出てくるラインも個性ですよね。デニムや革みたいな感じで、ダメージを楽しんでもらえたらうれしいかな。スケーターって、自分でランプやボックスを作ったり、DIYが好きな人も多いと思います。自分の“道具”であるデッキやトラックも修復しつつ長く使ってほしいなと。
ー 長く乗るという意味では、クルーザーに向いてそうですね。
漆スケートボードでは「使い込む楽しさ」っていうのがコンセプトだから、クルーザーはいい選択肢だと思ってるんですよ。傷んだデッキもリシェイプして、漆で加工してもらえたらいいなと思っています。
ー こっちのデッキは、クルーザーですけど……このイカツめの模様はなんですか?
これは、土と漆と水を混ぜて作った天然のデッキテープです。表面に塗っているのは「錆漆(さびうるし)」っていうんですけど、漆に「との粉」という土の粉を混ぜたもの。本来は、下地として木地を平滑にする為に使うものなんです。そこにあえて溝を入れてザラザラにすることで、デッキテープに応用できないかと思ったんです。
デッキテープの代わりに、漆と土だけで作ったという自然素材のグリップ。
砂紋のようなデコボコだが、好きなように溝をデザインできる。
ー これなら使い捨てではないですし、環境にも優しいですね。けど、さすがに乗れないんじゃないですか?
それが結構、グリップするんですよ。実際に京都のローカルスケーターの友人からも評判は上々です。小さいクルーザーデッキの場合だとフリップとかしづらいけど、この錆漆のデッキはしっかり足先にかかるって言ってました。加工も模様も自分次第で自由にカスタマイズできるので、デッキの叩きやすい箇所に、溝をつけておくこともできます。ぼくは子どもと一緒にお絵かき気分でやってますよ。
Spot編集長の上田いわく「たしかにクルーザとしてならデッキテープより、足にかかる感覚がある」。これ、もしかして大発明では……?
ー デッキテープって乗ってるうちに、摩耗でぼろぼろになったり、はがれたりするじゃないですか。これは従来のデッキテープより耐久性があるかもですね。
漆って硬化すると、めちゃくちゃ硬くなるので、デッキの保護になるかもしれません。実際、一般的に使われるアクリル塗料やウレタン塗料よりも硬度があるといわれています。
ー 防水効果とかも大丈夫なんですかね。
お味噌汁って漆のお椀に入れるでしょ。あれも漆の防水機能を利用しているんです。木って朽ちているところから痛むので、スケボーもデッキテープや塗料が剥がれたら痛みやすくなると思います。なので、デッキテープの下地に漆を塗ったり、たまに手入れしてリペアしたりすることで、防腐にもなると思いますよ。
デッキテープを貼る前の下地として漆を塗ることで防腐対策にも。
ー 漆って便利なんですね。色も自分でカスタマイズできるんですか?
まさにそれが僕らの仕事ですね。漆って産地ごとに色やツヤ、粘りが異なるんです。それを調合してオーダーに応えています。同じ材料を使っていても、漆を精製する日の気温や湿気でも違うものになるし、乾き方や熟成の進み具合でも変わってくる。
ー 漆って生き物みたいですね。
漆は木の樹液ですから、木自身が自分を守るために出すものなんです。だから、漆の命を塗っているという感覚はありますね。
漆の調合風景。実際に手で触って粘度を確かめたり、ツヤや乾き具合を調整していく。
ー 日本らしい塗料として漆がもっと広まればいいですね。
食器類だけでなく、仏壇や仏具のようなものでも、漆以外の塗料に代わられているのが現状なんですよ。けれど、多くの塗料は石油が原料ですから、いつか枯渇するし、環境にもよくない。それに、僕は漆が好きなんですよ。幼い頃から、実家の家業を見ていて漆ってかっこいいって思っていました。
ー けれど、世間では「めんどくさいもの」「職人しかできない」「高級品しかない」っていうイメージが先行していますね。
それを少しでも変えたい。日々の食卓に漆のお椀を使うように、先祖代々の仏壇を受け継いでいくみたいに、「使い繋ぐ」楽しみのあるスケーボーがあっていいと思うんですよね。
ー 全世界のスケーターはデッキを無駄にしちゃ、いけないですね。漆、めっちゃかっこよかったです。本日はありがとうございます。
● 漆塗りのスケートボードが気になる方はこちらへ
公式サイト:https://www.rethink-urushi.com/
● 京都で「漆 × サーフィン」の展示・イベントが開催中。現物を見れるチャンス!
イベント名:「From surfing to traditional crafts. 工芸からサーフィンへ」
開催日:2019年8月30日(金)〜2019年9月8日(日)
場所:FabCafe Kyoto(MTRL KYOTO)
参加費:展示観覧は予約不要・入場無料です。(※会期中企画については、予約制・有料のものがあります。詳しくは以下のサイトをご覧ください。)
公式サイト:https://mtrl.com/event/1908-09_fsttc
イベント概要:
世界的ウッドサーフボードシェイパーTom Wegener氏の来日に際して、彼の活動・思想に深く共感した、京都の漆屋「堤淺吉漆店」四代目・堤卓也と、「Shin&Co」プロデューサーの青木真が発起人となった、漆アライアプロジェクト「BEYOND TRADITION」日本展示上映会ツアーが京都を皮切りに開催されます。漆塗りのサーフボードやスケートボード、自転車の展示なども。
プロフィール
堤 卓也
創業明治42年の「堤淺吉漆店」専務。北海道大学で農学を学ぶかたわらスノーボードに夢中になる。雪がなくてもできる横ノリスポーツとしてサーフィンをはじめ、現在は週末サーファーに。他業種を経て、2004 年に実家の稼業でもあった「堤淺吉漆店」に入社。サーフィン、BMX、スケートボードなどとコラボレーションし、漆のもつ可能性や魅力を発信している。
FILM BY futoshi
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