AJSA 2018 H.L.N.A CUP
2018.09.05
灼熱の陽気だった8月も過ぎ去り、いよいよ今年のコンテストシーズンも佳境に突入。年間グランドチャンピオンの座も獲得するためにも非常に重要な1戦となるAJSAプロツアーの第3戦、H.L.N.A CUPの模様をお届けしよう。
少数精鋭のハイレベルなコンテスト
9月2日、静岡県静岡市にある東静岡アート&スポーツヒロバにてAJSAプロツアーの第3戦、H.L.N.A CUPが開催された。昨年の5月にオープンしたこの施設は、DAMN AM JAPANなど国際コンテストの開催実績を持つ国内屈指の大型施設で、JR東静岡駅の目の前に位置し、アクセスの良さでも非常に人気のスケートパークだ。
しかし、この日のエントリーは21名。第1戦のAdvance Cup、第2戦のASIAN OPENよりも少ないエントリー数となってしまったが、それは過去2戦にはスポンサー推薦枠があったり、5か国間のライダーで争うものだったりという背景があったからであり、決してコンテストの質が落ちるというわけではない。逆に言えば、プロ資格を持つ者しか出れない、少数精鋭の非常にレベルの高いコンテストと言うことができる。
予選から展開された”ガチ”勝負
案の定コンテストは予選からヒートアップ。決勝進出者は12名とエントリーライダーの半数以上を占めてはいるが、それでもここに集まるライダーは前述のようにプロ資格を持つ者のみ。Advance Cupのお祭り的な要素もなければ、ASIAN OPENのスケートボード未成熟国ライダー達の経験を積もうといったニュアンスも一切ない。本気の勝負を挑みに来たライダーのみで争われる非常にシンプルな生粋のコンテストだけに、平均レベルは最も高いと言っても過言ではない。
そんな中トップ通過を果たしたのは池田大亮。言うまでもなくここ数年の日本のコンテストシーンを牽引している彼は、もはや国内ではそう簡単に負けるわけにはいかない。難なくノーミスで滑りきり貫禄のトップ通過を果たした。しかし、その一方で最近HIBRID SKATEBOARDSからシグネチャーモデルをリリースしたり、VOLCOMの広告にもなるなど勢いを増す戸倉大鳳が19位で予選敗退となるなど、決勝進出争いは非常に白熱した戦いとなった。
地元勢の前に立ちはだかった王者・池田大亮
予選終了後、昼食休憩を挟んで開催された決勝。毎回プロ戦ともなると様々なドラマが生まれるが、今回もその類にもれず非常にドラマチックな展開となった。1本目のハイライトは何と言っても地元静岡が誇る2枚看板の1人、根附海龍に尽きる。
クォーターからフラットバンクへのB/Sヒールフリップインディートランスファーや、ハンドレールでのヒールフリップ F/Sボードスライドなどはメイクして当たり前。そこに予選でも練習でもトライしていなかったヒールフリップ B/Sリップスライドを織り込んできてのワンメイクには、普段は感情を表に出さない彼でさえも安堵の表情を浮かべていた。この攻めに出たライディングが功を奏し、後に続くライダーに無言のプレッシャーを与えることに成功する。
そして、その影響をもろに受けてしまったのが前回の覇者、池田大亮。彼はこの記事の最後のインタビューで後述しているが、このランを見た時は鳥肌がたったと話しており、必要以上に固くなってしまったのか、1本目でガゼルフリップをミスしてしまう。彼ほどの経験とスキルを持っていたとしても、平常心を保つのが難しくなるほど今の日本の10代若手ライダーはスキルが高いということなのだろう。
ただこの会心のランを見たらもう一人の地元代表、青木勇貴斗も黙ってはいない。すでにシグネチャートリックとなっているトレフリップからのF/Sリップスライドはもちろんのこと、バンク to バンクでのビガースピンフリップなど高難度な回しトリックを織り交ぜながらもノーミスでランを終了。池田大亮もノーミスで滑走を終えたのだが、1本目のガゼルフリップのミスが響いたのかそこをトレフリップで無難に締めたところが結果にどう影響するのか!? そこが優勝の争点となっていた。
しかし、そんな三つ巴の戦いも終わってみれば、制したのは池田大亮という”いつもの”結果となった。
もはや彼のレベルになると、この”いつもの”という表現が一番しっくりくるだろう。
もともと彼の持っているトリックレベルが高いのはもちろんなのだが、何度も見ていると印象という意味でフレッシュさがどうしても薄れてしまう。ジャッジ陣も彼の滑りは幼少期から何度も見ているため、すでにどんなトリックが出てくるのか予想がついてしまうのもあるだろう。
経験値では優勝を争った地元勢を上回り、国内では十分すぎるほどの実績を残している彼には、今後そのようなジャッジやオーディエンスのマンネリ化を打破するほどの滑りを期待されているのかもしれない。
もはやただ優勝するだけでは意味がない。そんなレベルに到達しているのが今の池田大亮の現在地と言える。
ー AJSAプロ第3戦を制した池田大亮へのインタビュー ー
ー正直ホッとした?
めちゃくちゃホッとしました。根附海龍が1本目でノーミスのランを自分が滑る前にやったから、その分プレッシャーがより重くのしかかってきちゃいましたね。予選でも練習でも全くトライしていなかったヒールフリップ B/Sリップスライドを決勝でワンメイクした瞬間は正直鳥肌が立ちました。
僕は予選の点数を見て、どうすれば1位になれるか考えていて、予選ではフラットレールでF/Sブラントだったところをダウンレールのキックフリップ B/Sリップスライドにして難易度を上げて、予選と決勝の間にそのルーティーンを何度も反復練習してたんですけど、それでも無条件に焦らされてしまいました。
ーでもその練習は間近で見ていてすごく印象的だったよ。1位通過しても決して休まずに、どのライダーよりも一番練習していたからね。そういうところが強さの秘訣なんだなって思ったよ。
でも1本目のガゼルフリップでミスしてしまったのが悔しかったですね、今日は予選でも練習でも乗れていたので。実は最近このトリックって点数が高いんだなってことに気付いて、トライしてみたら案外すんなりメイクできたんですよ。だから、最近ずっと練習していたトリックだっただけに余計にそう感じてしまいました。
ーそれはコンテスト中の表情を見てもかなり伝わってきたよ。
はい。あと、最近自分の中では良い滑りができたと思っても、点数があまり伸びないこともあって、それが不安をより増幅していたんだと思います。そこにあの根附海龍のノーミスのランがあったので、いつになくナーバスになっていたのかもしれません。正直に言って発表されるまで順位は全くわからなかったので、優勝が決まった瞬間は思わず気持ちが爆発しちゃいましたね。
ーそれでも優勝しちゃうのはさすがだね。でも点数が伸びなかったっていうのは、皆が大亮の持ち技に見慣れちゃったからってのもあるかもね。いくらすごいトリックをメイクしても、毎回ずっと同じことをやり続けていたら印象点はどうしても低くなっちゃうからさ。
そうですね。それはあるかもしれません。もちろん他にもトリックの引き出しもあるんですけど、1本目のランが良くないとなかなかチャレンジできないんですよね。仮にそこでミスが出てしまうと、2本目はどうしても確実なトリックを選んでしまうので。
ーそこが今後世界で勝ってもう一つ上のレベルに行くのに必要なことなのかもしれないよね。コンテスト毎のルールやシステム、ジャッジの傾向を考えたうえでベストなルーティーンを選択することが。
ですね。それに今年は堀米雄斗の活躍を見てると自分もすごい刺激になると言うか、早く追いつかないとと思っているので、いろいろなことを考えて練習しています。最近は彼がやってたトリックは確実に抑えつつ、自分だけのトリックも手に入れていこうと思ってやっていますね。やっぱり自分もSLSにはどうしても出たいので。
ーそうだよね。もう大亮くらいの実績があれば標準は世界になるよね。じゃあ次はDAMN AMとTAMPA AMだ。
ですね。今は堀米雄斗がSLSに出るまでに達成できなかったことを成し遂げてから行きたいと思っています。去年DAMN AMでの優勝は達成しているので、今年の目標は年間チャンピオンですね。それは堀米雄斗も成し遂げていないし、達成できればSLSにも出れるし、TAMPA AMは決勝からの出場になるので。
ーそれが実現できたら来年SLS、その翌年はオリンピックっていういい流れができるよね。
それが一番の理想です。去年は惜しかったんですけどDAMN AMの年間チャンピオンになれなかったので、今年の一番の目標はそこです。AJSAの年間チャンピオンは今回の優勝で達成できたので、次は世界で勝つことを目標に頑張っていこうと思っています。
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